第3章 緑玉髄の魂
得体の知れないなに者かが、絶え間なく変化し続けるこの世界に不穏な影を落としている。このヨコハマの秩序を乱し、ひとびとをおびやかす存在になろうとしている。
映は怖かった。なにより、狭い世界から解き放たれたばかりの映の日常が壊れてしまうことが。
いやだった。いままでさんざんに干渉を受けて育ったぶん、これからは誰にも、なにものにも干渉されたくなかった。敷かれたレールは走りたくなかった。
──緑玉髄。
これは予告状なのだろうか。防げなければ映の居場所を鏡原に通告すると、そういう脅迫状なのだろうか。
──解決してもらうとしたら、わたしの過去を、なにもかも話さなくてはならなくなる。
映は自分の人生とヨコハマの命運を天秤にかけた。
探偵社員なら、ここは迷わずヨコハマの未来を選ばなくてはならないはずだけれど。映はそこまで大人ではなかったし、なにより抱えているものが大きすぎた。
〝鏡原のお人形ちゃん〟として過ごした日々を思い出す。あのひとの、あの狂った瞳を。
──だけど。
いずれにしても、〝これ〟をなんとかできる人間を、映はひとりしか知らなかった。