第3章 緑玉髄の魂
血玉髄。血石、血星石、血玉石、ヘリオトロープ、濃緑色で半透明のカルセドニー。
櫻木の屋敷で、行き場なく転がっていたという、血のように模された石。
──死因はまだ、解明されていない。
司法解剖はされていたけれど、どんな検査をしても、その血液や細胞、組織からはなにも検出されなかったそうだ。そのため、なんのために死んだのか、深山の次男坊の死因は不明のまま。
──もし、あの事件の犯人が、ほんとうは櫻木婦人ではなかったとしたら……?
もしも犯人が別にいて、その人物が〝そういう〟異能力を持っていたとしたら。
たとえるなら、〝事件の痕跡を石に変える〟ような異能力が、この世に存在しているとしたら。
──ありえない話じゃない。
映は思い出す。昔、映がまだ鏡原の屋敷にいた頃。まだ、人形としてただぼうっと存在していただけの頃。屋敷にあった来客。
鏡原は名家だ。それゆえに持てあますほどの財力を持ち、よからぬ事業に手を出し、よからぬ組織ともつき合いがあった。
それは、ヨコハマの裏を取りしきる〝ポートマフィア〟という組織とも。
──Aと名乗る男。
その頃映はまだ十にも満たない年齢で、はっきりと記憶していない。ただ、始終気味の悪い笑みを浮かべていたことだけは憶えている。
鏡原の当主に、なにやら話を持ちかけていた男。たしか、あのとき。彼は組織の寝首をかくことを考えてはいなかったか。鏡原の財力をあてにして、なにか〝そういった〟話をしていたのではなかったか。
──その彼の異能は、
〝宝石王の乱心〟
〝自ら進んでAの持つ首輪を身につけた者の寿命を同価値の宝石に変換する〟
──たしか、ハイリと名乗っていた男。彼は、玉髄を集めているというの?