第3章 緑玉髄の魂
結局、軍警はあの事件は見立て殺人ではないとして、捜査も収束に向かっているらしい。けれど、映としては乱歩の言うことが正しい気がした。
──あれがただの殺人なら、わざわざ桜の木の下に遺棄する必要はない。
それに、と映は思う。
──それに、〝あれ〟を見て西行法師を思い出した、わたしの主観はなんだったの?
満開で、これから散るしかない桜の木の下で、アンティークの椅子に座った、仮面の男の死体。それはあまりにも幻想的で、あまりにも現実離れしていた。
ハイリ、もとい不詳の男は、どんな気持ちで〝あれ〟を遺棄したのだろう。いったいなにを思って、なにを感じていたのだろう。
あの屋敷で、自らの時間を止めた婦人のそばで、〝ハイリ〟として生きた彼は、いったいなに者であれたんだろう。
──事実は小説より奇なり、ってね。
映パソコンに向き直って、入力作業を再開した。