第1章 血玉髄の櫻木
「お待たせいたしました。こちらが当屋敷の主人でございます」
先ほどの使用人が、厚化粧にきらびやかなドレス、つけすぎのアクセサリーでごてごてに着飾った女性を連れてきた。そのかっこうからは年齢すらうかがえない。
「奥さま、こちらです」
──なんだか、感じの悪いひとだな。
映は使用人の態度が気にかかった。
迷惑そうに眉根を寄せることはするのに、いっさい笑わないしそのほかの表情がまったく見られない。目が死んでる。もはや表情筋すら死んでるんじゃないか。
声にも心なしか抑揚がないような気もする。つまり感情が感じられないのだ。まるで、そう、──
──人形のような。
ぞくり。思いあたった瞬間、映の背すじに冷たいものが走った。
人形。人形人形人形人形。
──喜びなさい。おまえは私の人形になるんだよ。あぁ、私の、いとしいいとしいマリオネット。あなたは永久に、私のもの。
「……? 映? 映! 顔、青とおりこして白いよ。平気?」
「っは、あ、平気、です……」
ほんとうはすぐにでも倒れてしまいそうだったけれど、それよりも〝原因〟を知られてしまうほうが映にとっては都合が悪かった。
とりあえず、あの座り心地の悪い椅子に身をしずめて、映は額に手をあてがった。冷えた手の甲が映を正気に引き戻してくれる。
──大丈夫。わたしは大丈夫。
──もう二度と、あんなところには戻らない。