• テキストサイズ

【文スト】球体の鏡より【江戸川乱歩】

第1章 血玉髄の櫻木







「お待たせいたしました。こちらが当屋敷の主人でございます」


先ほどの使用人が、厚化粧にきらびやかなドレス、つけすぎのアクセサリーでごてごてに着飾った女性を連れてきた。そのかっこうからは年齢すらうかがえない。


「奥さま、こちらです」





──なんだか、感じの悪いひとだな。



映は使用人の態度が気にかかった。

迷惑そうに眉根を寄せることはするのに、いっさい笑わないしそのほかの表情がまったく見られない。目が死んでる。もはや表情筋すら死んでるんじゃないか。

声にも心なしか抑揚がないような気もする。つまり感情が感じられないのだ。まるで、そう、──





──人形のような。





ぞくり。思いあたった瞬間、映の背すじに冷たいものが走った。


人形。人形人形人形人形。







──喜びなさい。おまえは私の人形になるんだよ。あぁ、私の、いとしいいとしいマリオネット。あなたは永久に、私のもの。






「……? 映? 映! 顔、青とおりこして白いよ。平気?」

「っは、あ、平気、です……」



ほんとうはすぐにでも倒れてしまいそうだったけれど、それよりも〝原因〟を知られてしまうほうが映にとっては都合が悪かった。

とりあえず、あの座り心地の悪い椅子に身をしずめて、映は額に手をあてがった。冷えた手の甲が映を正気に引き戻してくれる。








──大丈夫。わたしは大丈夫。








──もう二度と、あんなところには戻らない。







/ 60ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp