第1章 血玉髄の櫻木
そこは、洋風で優雅なたたずまいの大きな屋敷だった。屋根の上の風見鶏が、からからと音をたてていた。
「でかい家だな」
箕浦がつぶやく。この規模の家は、もう豪邸に数えられてしまうということを映ははじめて知った。どうも世間とのズレがある。ボロを出さないようにしなくては、と映はかたく誓った。
「ほら、早く行くよ」
乱歩はなんの感慨もなさそうにすたすたと歩いて門扉の前に立った。きっと情緒なんてものもないんだろうな、と映はどこかで思う。そう思ってしまうほどに、乱歩はひどくあけすけだった。
──そうやって受け流せる余裕が、わたしにはうらやましいわ。
映は自分の生いたちを回想してため息をついた。決してそんな余裕が生まれるような生活ではなかった。つねに張りつめて、体も心も休まることなんてない。ひとは映を憐れだと言った。
──だからなによ。憐れでも、わたしは生きてる。
悔しさに唇を噛んだときだって、羨望に枕を濡らした夜だってあった。それでも状況が変わらなかったから、映は家を出たのだ。
──いまさら、あれこれ過去を考えてもしかたない。
気丈に生きようと決めたのだ。悔やむことも頭をふることも意味を成さなかったから。〝しかたない〟と口ぐせのように言いながら、生きるうえでの大半をあきらめてきた。
──だめだめ。辛気くさいのはおしまい。
乱歩がドアベルを鳴らした。おそらくは屋敷中に響きわたるであろう荘厳な音が、事件の終結へといざなうように映の耳を刺激した。
いつの間にか、映は自分の中に事件捜査への探求心と好奇心を見いだしていた。映はびっくりはしたものの、さして意外だとは思わなかったことにことさらびっくりしていた。
その実、映が育った環境というものは、あまりよろしくはなかったのだ。小説の主人公になった気分を味わえる、この仕事もいいかもしれない。
──さぁて、ご対面といきますか。