第27章 俺の知らない彼女の過去【政宗・元就】
日ノ本西の国、中国安芸。奥州より飛翔せし隻眼の竜、伊達政宗はそこにいた。なぜ奥州の王である彼がこんな所にいるのかというと。
「Ah?冴は不在だ?」
彼はしばらく姿を見せていない冴を訪ねて来たのだった。しかし、帰って来てはいるが今屋敷にはいないという。
「なら、毛利んとこか?」
「近からず、遠からずという所ですね」
「どういうことだ?」
政宗の隻眼が、冴の兄で高瀬家現当主である暁良を見据える。
「冴は元就様と一緒にいるでしょう。しかし居るのは厳島でも、高松城でもありません」
「だから、どういうことだ」
「…少々、お待ちを」
言って暁良はいったん姿を消す。暁良は冴の六つ年上の兄で、父の商才を受け継いだ青年だ。また人柄も父と良く似ていると言われている。しばらくして暁良は戻って来た。その手には一枚の紙。彼はそれを政宗に差し出した。
「ここに、冴はいます」
「…山?」
それは地図で、暁良が示したのはここからさほど遠くない山の深く。
「こんな所に何しに行ってんだ?あいつらは」
「墓参りです」
「…あー…」
政宗はバツが悪そうに頭をかいた。墓参りというのはおそらく冴の両親のだろう。四年前に他界したと言っていた。政宗はふと思い、暁良を見た。
「そういや冴から死因まではきいていなかったな。病か?」
「………いえ」
政宗の問いに、暁良は視線を逸らした。
「戦に出たわけじゃねぇだろ。他に何があるってんだ?」
「…両親は、殺されました。戦ではなく、あの山の中で」
「んな…?」
政宗の左目が大きく見開かれる。その様子を見て暁良はほんの小さく息をついた。
「やはり冴は話していなかったのですね。これ以上は、私の口からはお話できません。あの子に直接訊いてください」
「…あぁ、わかった」
つまり冴に関係することなのだろう。政宗は身を翻し、紙に記された山ヘと向かって行った。
「…政宗公であれば、冴も、大丈夫だろう…」
彼の背を見つめたままの暁良の呟きは、風に消えた。