第26章 眼帯の下【元親】
「ねぇ、今までなんとなくきかなかったけど、その下ってどうなってんの?」
「え゛」
冴の突然の問いは、元親の動きを止めるには充分なものだった。
「この下って…この下、だよな」
「うん、この下」
これ、と冴が示したのは、元親の左目をすっぽり覆い隠す紫色の眼帯。出会った時から〝そう〟の左目は一度もこの目で見たことがない。彼の者のように病だったときいたことも、幼い頃に怪我を負ったのだときいたこともない。それ以外なのだろうが、思いつかない。今までなんとなく訊かないでいたのだが、不意に思い立って問うたのだった。
「あー…別に見てもいいもんはねぇぞ?」
「いいもんかそうじゃないかは私が決める。というか、別に損得で知りたいわけじゃないんだから、いいんだよ」
「…しゃあねぇなぁ…」
苦笑とため息を混ぜながら、元親が左目の眼帯に手を掛ける。冴はその様子を黙ってじっと見つめていた。眼帯が外され、その下に見たのは。
「え…?」
思わず出た声。違和感があったからかもしれない。その、冴の見つめる、色の違う双眸に。露わになった左目は、青みのある右目とは全く異なり、紅朱の色をしていた。
「…つーわけで、俺の左目は右目と色が違う。ありえねぇ色だ。な?別にいいもんでもねぇだろ?」
「…綺麗」
「は?」
急にぐっと顔が近くなり、元親が突然の事に驚いて半歩後退した。焦りからか、ほんの少し頬が熱くなっているのを自分で感じる。だが冴は気づいていないのか、じっと元親の左目を見つめている。朱の瞳が真っ直ぐで熱い視線に耐えきれなくなって、すすす…と逃げる。
「あ、見えてはいるんだ?」
「ん?あぁ。色が違ぇのと陽に弱ぇってこと以外はわりと普通だな。あと、右目し視力は低い。…その時点で普通じゃねぇか」
元親は明るく笑って眼帯をつけた。
「陽に弱いって?」
「まぁ、一種の病みてぇなもんだな。陽に晒してるとそのうち本当に失明しちまうってんで、眼帯をつけてるわけだ」
「ふーん…」
冴は未だ、眼帯の下の左目を見つめている。そして、言い放った。