第25章 不敵な笑みをうかべて【竹中半兵衛】
大坂の町に着いた冴は、厩に彩輝を預けて町中を歩いていた。『覇王』と呼ばれる豊臣秀吉が統べる町…どんなものかと興味本位で来てはみたが、意外に普通だった。京ほど明るく華やかではないが栄えているようだ。
きょろ、と辺りを見渡しながら歩いていると、いつの間にか視線を感じるようになっていた。
「…」
数秒考え、不自然にならないように装いながら大通りを外れる。やはりその視線もついてきていた。それなりに歩いたところで足を止め、ぐるりと辺りを一巡見渡す。
「なにか、用?」
「…さすが、と言ったところかな」
足音がしてきた方に向き直る。そこに立っていたのは、紫白の髪を持ち、その顔に変わった仮面をつけた細身の青年だった。顔色は青白く、唇も紫色をしている。
「…誰。私を知っているような言い方だけど」
「これは失礼。僕は竹中半兵衛という者だ」
「竹中半兵衛…豊臣秀吉の軍師の…?そんな人が私に何の用?」
「回りくどい言い方を嫌いそうだね。単刀直入に言おう。…君が、欲しい」
「…何?」
竹中半兵衛の突拍子もない言葉に冴は眉をひそめた。欲しい、と言ったか、この男は。
「豊臣軍に君のような人材がいるのもいいと思ってね。どうかな?」
「…買ってもらえるのはありがたいことだけど、断る」
「そう言うと思ったよ。理由をきいても?」
わかっているならなぜきいた、と思いながら冴は真っ直ぐ竹中を見据える。