第2章 「何回だって言ってあげる」【梵天丸】
「…わたしは、そんなことおもわないよ」
「…うそだ」
「うそじゃないよ。ぼんてんまるは『ひと』だよ。ちゃんと…」
冴の手が、そっと梵天丸の頭に乗せられる。梵天丸はまたびくりと震えたが、冴は気にしなかった。
「こうやってさわれる、『ひと』だよ…」
ぽたり、と畳の上に何かが落ちた。
「…なん、で、おまえがなくんだよ…」
「だって…だって…」
冴の両目から、ぽろぽろと涙がこぼれていた。
「……わかった」
「え?」
梵天丸の言葉に、冴がぴたりと止まる。ゆっくりと上げられる梵天丸の顔をじっと見つめる。顔が上がるにつれて冴は笑顔になっていったが、すぐに悲しそうな表情に戻った。前髪で隠れる右目には、包帯が巻かれていた。冴は前髪の上からそっと右目に触れた。今度は大きく震え上がりはしなかったものの、梵天丸は小刻みに震えていた。
「ここが、びょうきなの?」
「……」
梵天丸はこくりと頷き、そのまま俯き気味になった。冴はさらに、右目を隠している前髪をよける。包帯で直接は見えないものの、盛り上がっているように見え、その異常さは明白だった。
「…こわい、だろ。きもちわるい、だろ…?」
そう絞り出す梵天丸の声は震えている。
「…ぼんてんまる。こわくも、きもちわるくもないよ。ばけものなんて、おもうわけがない。だって、ぼんてんまるは、ぼんてんまるだよ」
「!!?」
梵天丸が顔を上げる。その顔は驚きと戸惑いに満ちていた。
「う…そだ…」
「うそじゃないよ。なんかいだっていってあげる。ぼんてんまるは、ぼんてんまる。こうやってさわれる『ひと』。ぼんてんまるっていう、『ひと』だよ」
「…ッ!!」
梵天丸は不思議な感覚にとらわれた。父の口から発せられるものとも、小十郎や喜多のものとも違う。重いモノが一気に抜けたような感覚と同時に、梵天丸は露わになっている左の目から、いくつもの涙をこぼした。
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セリフ 101~150
お題配布元:はちみつトースト 様
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