第23章 初恋のけじめ【浅井長政・お市】
しばらく歩いていると、見知った後ろ姿がきょろきょろ辺りを見渡していた。隣で「あ、長政様… 」という呟きがきこえた。
「長政!」
代わりに呼ぶと、勢いよく振り向く。冴だとわかるとパッと顔を明るくしたが、すぐに隣のお市に目を留めてぎょっと身体を震わせた。
「市!?なぜここにいるのだ!」
「あの…市、お城を出て行く長政様を見掛けて…」
「一人で出て来たのか!?」
「ごめんなさい…」
頭ごなしに言われ、市がうなだれる。そこへ、まぁまぁと冴が割って入った。
「お市様は長政がどこへ行くのか気になったんですよね?」
こくん、とお市が頷いた。それにしても、と長政が口を開くのに、すかさず冴が続ける。
「お供を呼んでいたら長政を見失ってしまう、って急いで追ったのでしょう?」
またお市が頷く。長政は何も言えずただ押し黙った。
「それよりほら、長政、出掛けた理由を教えてあげたら?」
「あ、あぁ…」
冴に言われ、長政は懐から包みを出した。それを半ば突きつけるようにお市に差し出す。
「これは…?」
「お市様への贈り物ですよ」
「市、に…?」
「長政はこれをこっそり買う為に一人で城下に出たんです」
お市が長政を見た。彼は顔を赤く染め、お市と目を合わせないように逸らしている。お市は数秒そのまま長政を見つめていたが、やがて包みを受け取って小さく微笑んだ。
「ありがとう、長政様」
「……あぁ」
「開けていい?」
返事は無かったが、それを肯定ととり、お市はそっと包みを開けた。そこにあったのは、優しい緋い花の簪だった。
「きれい…」
「…選んだのは冴だ」
「そう、なの?」
「奥方様に贈り物をするのは初めてだということだったので、お手伝いを」
「そう…」