第23章 初恋のけじめ【浅井長政・お市】
ちょっと茶店で休んでいると、ふと一人の女性が目に入った。漆黒の長い髪を流した、冴よりふたつみっつ年上の女性。おろおろきょろきょろと辺りを見渡して何かを探している様子だ。じっと観察してみるが、気づかない。33寸くらいまで近づいて来た時、「長政様…」と彼女の口から知った名前が出てきた。冴は数回目を瞬かせ、もしかして、と立ち上がって彼女に声を掛けた。
「あの、もしや、お市様でしょうか?」
「えっ…?」
突然声を掛けられた彼女は驚いた様子で冴を見る。
「どうして、市のことを…?」
「長政様、とおっしゃられたので。今彼のお側におられるのは、お市様だけと存じております」
「そう…あなたは?」
「私は高瀬冴といいます。長政殿の友人です」
「長政様の…」
お市は軽く目を瞠った。そして軽く俯きがちになる。冴はどうしたのかなと思いつつ、お市に状況をきくことにした。
「お市様、なぜお一人でこのようなところに?
「…長政様が、城下へ出て行くのが見えて…」
「追って来て見失ったと」
こくん、とお市が頷いたことで冴は状況を把握した。共をつけてこなかったのは、それだけ急いでいたということだろうか。
「ではお市様、一緒に長政を探しましょうか」
「いいの?」
「もちろんです」
私もはぐれてしまったとこだったので。冴が笑うと、お市も小さく微笑った。冴は「あ、綺麗だな」と思いながら、お市の手をとって歩き出した。