第23章 初恋のけじめ【浅井長政・お市】
長政が歩いてきた先は、市だった。様々な市が並んで活気で溢れている。ここに、何の用があるのだろうか。
「長政?」
首を傾げて彼を見てみれば、何か言い出そうとはしているがそこまで至らない様子。もう一度名を呼ぶと、意を決したように一度目を閉じた。
「…冴、お前に…市への贈り物を選んでもらいたいのだ」
「え?」
市への贈り物、ということは、奥方に迎えたお市へとのことだろう。同盟のための政略結婚ではあるが、長政はどうやら彼女を愛そうと努力しているようで、冴は小さく笑みを浮かべた。
「な、なぜ笑う?」
「いいや、なんでもないよ。何がいいかなぁ。というか、私が奥方様への贈り物選んでいいの?」
私じゃそれほどお役に立てないと思うんだけど。そう言うと長政は首を振った。
「これは私のけじめでもある。お前に、選んでほしい」
「ふぅん…?まぁ、良いならいいけど。そうだねぇ、定石はやっぱ簪とかだよねー」
なんだろうと思ったが、きかないでおくことにした。きょろきょろしながら冴が歩き出す。長政はその冴の後を、ついて歩いた。
これはどう?こっちは?を繰り返しながらもなんとか贈り物は決まったが、休憩がてら茶店を探している途中で長政とはぐれてしまった。向こうは勝手知ったる小谷城下だし、冴は方向感覚は良いほうだ。そのうち合流できるだろうととくに気にしていなかった。