第20章 甘い香りがする【長曾我部元親】
「…なに、これ」
「おう、よく来てくれたな、冴」
冴は真っ直ぐ元親の部屋に来たわけだが、その部屋は紙、着物、カラクリの残骸、その他諸々の物が散乱し、埋め尽くされていた。足の踏み場もないと立ち尽くしていたら元親が一部分をかき分けて座り場を作ってくれたので、ひとまずそこに腰を下ろす。
「片付けしてたらこんなになっちまってよ」
「あー…あれね。片づけ始めたはいいけど懐かしい物とか勿体ない物とか捨てられなくて、結局片付かないってやつ」
周りを見てみればわかる。カラクリの残骸なんて明らかに失敗作、最早ガラクタだ。紙も大半はカラクリの失敗設計図だろう。着物に至っては姫若子時代の物も混ざっている。
「…で、私にも手伝えと」
「まぁ、そういうこった。頼むぜ」
「あのねぇ」
まぁいいけど。冴はため息をついて、ひとまず近場にあった着物を手にした。淡い紫と淡い赤で彩られたそれはまさしく〝姫〟のもの。大きさからして元親が幼い時に着ていたものだ。
「こんなのとっといてどうするの?」
「そりゃお前、俺にもし娘が出来たら着せてやれるだろうが」
「…新しいの買ってあげなさいよ、殿様なんだから」
「勿体ねぇだろうが」
タダじゃねぇんだぞ。言いながら元親は片づけを進めている。カラクリにつぎ込む予算を減らしたら?と思いながら元親の背中を見つめた。その背中は大きく、とてもこの着物を着て〝姫〟をしていたとは思えない。冴はこっそり寸法を合わせてやろうと元親の背中に近づいた。そこでふと鼻が反応する。
「なんか甘い香りがする…」
「あ?あー…昔の出したから匂いが移ったか?」
言って元親は自分で匂いを嗅いで「お、本当だ」と笑った。
「ならお前にも移ったんじゃねぇか?」
「え」
ぐいっと引き寄せられ、匂いを嗅がれる。元親の鼻が、くん、とうなった気がした。
「移ってんなぁ。お前も甘い匂いがするぜ」
「え…姫若子がうつる」
「どういう意味だオイ」
怪訝そうな顔を合わせ、二人して笑った。
片付けを再開したはいいものの、あれも姫だこれも姫だこれ懐かしいなぁと話が進んでしまい、様子を見に来た隼人に二人して怒鳴られたのであった。
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お題配布元:はちみつトースト 様
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