第18章 私のじゃない。返り血だよ【伊達政宗】
それは、奥州へ行く途中の山の中で起きた。
大きく息切れする音が自分の耳にもよく入り込んでくる。すでにあちこちが朱に染まっているが、それでも止まることは許されない。止まったら、殺される。
そもそもなぜこんなことになったのか。奥州に行く途中で確か、襲われたのだ。返り討ちにしてやったら何十人もの新手が現れた。賊から落武者まで、様々。囲まれたらお終いだと走りながら戦っているのだが、数が減った気がしない。彩輝は大丈夫だろうか。この辺りをうろつかずに先に米沢城へ行って安全を確保していてほしい。その意はわかってくれているはずだ。伊達にあの子が生まれたときから一緒にいるわけではない。
またひとつ、朱が増えた。ひとつ、ふたつ。着物が朱のせいで重い。意識が朦朧としそうだ。肩で大きくする呼吸も落ち着かない。そんな時、気を散じてしまっていたのか、前方に突如現れた気配に気が付かなかった。そして、何かが、弾けるような音がした。