第17章 命懸けの鬼ごっこ【毛利元就・長曾我部元親】
現在、高瀬冴は全力疾走していた。時々、跳んだりしゃがんだりしている。隣には、左目を眼帯で覆った長身の男、四国の長、長曾我部元親。彼もまた冴と同様に、走りながら跳んだりしゃがんだりしていた。というのも、二人は逃げているのだった。鬼にも負けぬ気迫と殺気で追いかけてくる、毛利元就から。彼女らは元就の攻撃を避けながら走っているため、跳んだりしゃがんだりしているのでだった。
「どうなってんだよ、冴!!」
走りながら元親が言う。
「同盟の話は任せておけって、言ったじゃねぇか!!」
そう言っている最中にも、容赦なく元就の輪刀がとんでくる。元親は、埒のあかない中国四国間の戦に邪魔が入りそうなことを悟り、毛利と同盟を組んで一時休戦、邪魔者を排除してから再戦しようとしていた。その駆け引きを、両当主の幼馴染である冴に頼んだ。元々二人が戦い合う事が本望でない冴は、喜んでそれを引き受けたのだった。任せておけという、自信たっぷりな言葉つきで。
「それなのにっ、なんだっ、この、仕打ちはぁっ!?」
輪刀が元親の髪をかすめた。白に近い髪がほんの少し、散っていく。
「おまえっ、本当に、あいつに是と言わせたんだろうな!?」
「いや?」
「って、おい!!?」
さらりと言ってのけた冴に元親は思わずツッコんだ。冴は悪びれる様子など全くなく、しれっとしている。
「直接説明すればいいと思って」
「おまっ…!大丈夫だって言うからてっきりすでに説明したのかと…!!」
「いやー、だってさー……中国四国往復するのめんどくさいし」
「お前今めんどくさいっつった!?」
ぼそりと呟いた言葉も元親にはしっかり聞こえていたらしいが、冴は知らぬふりをした。
「めんどくさいって、そんな理由で俺、今、殺されかけてんのかよ!?おまえ、いい加減にしろよ!」
「じゃかぁしぃわ!そんなならハナっから頼まんかったらえぇじゃろうが!!」
「逆ギレすんなよ!!」
そんな言い争いをしているうちに、二人は厳島の奥へと追いつめられてしまっていた。元就が口元に妖しげな笑みを浮かべつつ歩み寄ってくる。