第16章 「嘘臭い笑顔をありがとう」【猿飛佐助・真田幸村】↑後
「やぁ、また会ったねぇ。いや、直接は会ってないから初めましてかな?」
「やっぱり、あの時の忍…」
「佐助、冴殿とお知り合いなのか?」
幸村が首を傾げながら訊く。
「知り合いってほどでもないけど、国境でちょっと、ね」
佐助が冴に目配せする。わざわざ言う事ではないか、と冴もただ頷いた。
「そうか…。佐助、冴殿は客人ゆえ、丁重におもてなしせよ」
「はいよ」
「だから丁重とかいいって…」
だが幸村は聞く耳持たず。ぽん、と肩を叩かれ振り向けば、小介が苦笑していた。彼の主は頑固者のようだ。
「じゃあこの子は俺に任せて、旦那は仕事に戻りなよ?すーぐ溜めるんだから」
「う…わ、わかっておる!佐助、くれぐれもだぞ!」
「はいはい」
幸村は渋々という感じで、城の奥へと向かって行った。
「さて、と」
佐助が冴に向き直る。
「小介、お前ももう戻れ。俺一人でいい」
「承知」
小介は佐助の命を受け、軽く一礼すると一瞬のうちに姿を消した。
「…幸村の影武者、それも忍、か」
「まぁね。で、また同じようなこと訊くけど」
「武田及び真田の害になるようなことは決してしない。幸村に団子を奢ったのは単なる偶然。名乗られるまで気づかなかったし」
「ふーん…」
言われる前に言ってしまえ、と冴は一気にまくしたてた。
「ま、いいでしょ。旦那が連れて来たわけだし
ふう、と一息ついて佐助が言う。
「丁重にって言われたから、とりあえず丁重におもてなししますよ」
にこりと笑う佐助だが、冴はその笑顔を素直に受け取れなかった。警戒されているからではない。それは忍として、部下として当然のこと。主が〝あぁ〟ならなおさらだ。しかしこれは、また別の所にありそうだ。警戒ではなく、心を向けられていないような。冴は歩き出そうとする佐助に向かって言い放った。
「嘘臭い笑顔をありがとう」
ばっと佐助が振り向く。その表情は、不意を突かれたような、そんなもの。
「本当の笑顔を見せてもらえるようにならないとかな」
冴がにこりと笑うと、佐助は唖然として目を瞬かせていた。
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セリフ 301~350
お題配布元:はちみつトースト 様
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