第14章 桜舞う夜に【猿飛佐助】
ひらり、ひらり、と月光に照らされてうっすら輝きながら、桜が舞っている。こんな状況でなければ夜桜を楽しむのに、と冴はため息をついた。
予定が思ったより遅れ、夜になってから甲斐に入ったのがいけなかったのだろうか。野宿でもいいかなんて考えは浅はかだっただろうか。少しの賊なら返り討ちにしてやればいいかなんて安易な考えがいけなかったのだろうか。どれも当てはまる気がするが、さすがにこれは想定外だった。始めは5、6人くらいで、これなら適当にあしらえるかと彩輝を離れさせて走り回っていたのだが、いつの間にか増えに増え、ざっと20人くらいになってしまった。しかも、囲まれている。一方へ動いたところを背後から狙うつもりなのだろう。わかりやすいが、多人数対一人では定石で効果的だ。
(相手の技量にもよるけどね。とはいえ、いつまでもこうしているわけにはいかないし…仕方ない)
冴はもう一度ため息をついて居合いの構えをとった。周囲の警戒が変わる。冴はそれを感じた後、前方に大きく跳躍し、そのまま薙ぎ払った。着地して左足を軸に振り向き、背後から襲いかかって来た奴らを一閃する。続いて、左右同時から。冴は挟み撃ちにされないように走って移動し、大岩を背にして待ち構えた。
「追い詰めたぜぇ。大人しく金目のもんだしな」
「まぁ、あんた自身でもいいけどなぁ」
下品な笑いに冴の顔が歪む。わざと追いつめられたことにも気づかず、なんとのん気な事か。さらに、何やら別の厄介事までありそうだ。本当、ついていない。この度三回目の溜息をつき、冴は前を見据えた。それにしても、いつからいたのだろうか。
(まぁ、あっちは後でいいか)
どうせこのまま高みの見物をしているつもりなのだろうから。
「大人しく出す気も身をやる気も更々無い。死にたくなかったらさっさと失せなさい」
「あー?…んじゃあ仕方ねぇな。力づくで奪うまでだ!!」
賊が、一斉に動いた。