第10章 名前を聞いていない【前田慶次】
「じゃかぁし「まぁまぁ兄さん方、落ち着こうや。その娘、嫌がってるだろ?」
強行突破に出ようと刀に手を添えたとき、表通りの方から声がした。三人そろってそちらを向く。
(…誰)
体格はがっしり、髪はと冴同じように高い所で一つに結っており、肩にはなぜか小猿が乗っている。その格好は黄を主とした派手なもの。〝傾奇者〟がよく似合う。そして肩から後ろ手に持っている、大きな刀。
「女の子一人に男が二人がかりなんてかわいそうだろ?それに…」
傾奇男の目がちら、と冴の手元に向く。
「離してあげないと、彼女の刃がお兄さん方に向くかもよ?」
「「!?」」
「……」
男たちは刀に手が添えられたままの冴の手元を目視すると、一瞬にして冴から離れた。
「ッ…じゃ、じゃあな!今度から気をつけろよ!!」
そして捨て台詞のように言い、そそくさと逃げて行った。
「大丈夫だったかい?」
冴が何気なく男たちの逃げ姿を見送っていると、傾奇男が横に並んだ。
「余計なお世話だったけど、ありがとう」
「ははっ!言うねぇ」
傾奇男が笑うと、肩の小猿が「キキッ」とないた。
「それじゃ、もう酔っ払いなんかにからまれるなよ?」
ぽんっと頭を撫でられ、冴は顔をしかめるが、傾奇男は気にせず笑って去っていった。
(変な奴…でもまぁ、嫌いじゃないけど。…あ)
冴はふと思って傾奇男が去っていった方を見た。
「名前、きいておけばよかったかな」
呟いても答えてくれる相手はいない。まぁ、縁があればまた逢うだろう。冴はひとつ息をついて、賑やかな街中へと戻っていった。
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お題配布元:はちみつトースト 様
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