第7章 君と出会って私の世界が動き始めた【弥三郎】
「別に、いいのにね」
「え…」
不意に、冴が言った。
「だって、戦うの嫌いなんでしょ?だったら無理して戦わなくてもいいと思うけど」
他者がきけば、綺麗事を、と言うだろう。武家の、それも嫡男に生まれたというのに。しかし冴は武もあるが商家の子で、また幼いため、そのような考えは持ち合わせていなかった。
「わたしは逆に、武術の稽古が好きで、女の子の作法、苦手だし…」
「……」
弥三郎は呆気にとられている。しかし同時に、スッとなにか重たい物が抜けて行く感覚があった。
このままでいても、いいのか。
「でも、でもね」
冴の、ほんの少し気恥ずかしそうな様子に弥三郎は首を傾げる。
「弥三郎のかっこいいところも、ちょっと、見てみたい、かな」
「!」
その言葉に、弥三郎の心に違うものが入り込む。
「あ、もう戻らなきゃ。じゃあまたね、弥三郎!」
「あ…うん。…また」
手を振って去っていく冴の後ろを見送り、弥三郎は思った。
戦いは、嫌いだ。
人を傷付けて、殺して、何が良いのかわからない。
だからこうして、女の格好をして、部屋遊びをして…必死に抵抗して。
でも…。
「弥三郎のかっこいいところも、ちょっと、見てみたい、かな」
弥三郎の心が、少し揺らいだ。
戦いは、嫌いだ。
でも、君が見てみたいと言うのなら。
いつになるかはわからない。すぐにはきっと、無理だから。
でも、いつか。
いつか君に、勇姿を見せてあげたい。
〝姫若子〟ではない、〝おれ〟の。
世界が少し、変わった日。
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choice 301~400
お題配布元:はちみつトースト 様
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