第7章 君と出会って私の世界が動き始めた【弥三郎】
四国、岡豊城。
高瀬親子の現在地である。冴は数えで9歳になっていた。いつものように真暁は仕事に行き、冴は1人庭で遊んでいた。そこでふと、何かが聞こえてくることに気づく。
「歌…?」
冴は耳をよく澄まして、どこから聞こえてくるのか探った。高くはないが、低くもない声。不思議と胸にしみてくる。歌が徐々に大きくなっていくことを頼りに歩いていくと、襖が歩いている部屋の前に辿り着いた。確かに歌は此処から聞こえてくる。縁側に膝立ちになり、部屋の中を目をこらしてみる。部屋の奥には、1人でお手玉をして遊んでいる子どもがいた。冴がいる方に背を向けている状態なので顔はわからないが、灰白色の髪が目につく。
「ねぇ」
「!!?」
冴が声をかけると、相手は驚いてお手玉を取り落し、おそるおそる振り向いた。
「だ、誰…?」
今度は冴が驚いて目を丸くする。その子どもは、左目に眼帯をしていたのだ。脳裏に、3年前仲良くなった少年が浮かび上がり、この子も〝そう〟なのだろうかと気を落とす。
「…?」
その状態のまま黙って動かない冴をどう思ったのか、子どもは立ち上がって縁側の方に歩いた。綺麗な着物を身に纏い、左目に眼帯を付けた、灰白色の髪の子ども。冴よりいくつか年上だからか、背の差は少し大きい。
「…誰?何か、用?」
「えっ、あ、えっと…」
冴は、はっと我に返り、言葉を濁したがすぐに顔を上げて相手を見る。
「わたし、高瀬冴。1人で遊んでるんだったら、一緒に遊びませんか?」
子どもは目を丸くしたが、やがてこくりと頷き、冴を中へ招き入れた。