第5章 それだけで 十分だから【梵天丸】↑後
「…梵天丸様」
いつもの小さな背中が、震えてさらに小さく見えた。小十郎はその小さな主に近づく。
「梵天丸様、傷の手当てをしますので、冴様をお離しださい」
「…っ」
梵天丸は俯いて冴の着物を離そうとしない。
「おれの、せいでっ…冴、けがした…!!」
「…悔いることよりも、今は傷の手当てをすることが先決です」
「…っ」
だが梵天丸は首を振って譲らない。
「だい、じょうぶだよ、ぼん」
「冴…!!」
額をおさえながら、冴が小さく笑う。その指の隙間からはまだ、わずかに血が流れていた。
「額を…冴様、手当てをしますので、お手を」
小くんと頷きゆっくり手を離すと、小十郎に布をあてられる。じわり、と布が朱に染まっていく。
「幸い、傷は浅いようですね」
「…だって。だからだいじょうぶだよ?ぼん」
「……ッ!!」
梵天丸の頭に優しく手が乗せられる。すると、その左目から大粒の涙がぽろぽろと零れ始めた。
「ごめっ…ごめん…!!冴、ごめん…!!」
「どうしてぼんがあやまるの?わたしがかってにとびだしたんだよ?」
「でもっ、おれが、きをつければ…」
「もういいよ、ぼん」
痛みを堪えながら、冴は優しく笑う。
「わらって?それだけで、いいから」
「そん、な、こと…!」
「梵天丸様、大切な事をまだ言っておりませぬぞ」
冴の頭に包帯を巻き終えた小十郎が言う。
「たいせつな、こと…?」
「梵天丸様は、冴様に助けていただいたのです」
梵天丸も冴もきょとんそした。そしてゆっくりと、梵天丸の顔が冴の方へ向く。
「ありが、とう…」
ぎこちない微笑みだったが、冴は嬉しくて笑い返した。
「この傷は、残ってしまうでしょう…」
「…そっか」
「そんなこときにしなくても、おおきくなったらおれのところにくればいい」
「!?」
「…いいの?」
「もちろんだ」
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お題配布元:はちみつトースト 様
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