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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第7章 サーカス







──最近、芥川と綴の仲がいい、らしい。




らしい、というのも、中也自身が目撃したわけではなく、人づてに、おもに樋口づてに聞いた話でしかないので断言できないのである。しかしてそんな嘘をついたところで樋口にはなんの得もないので、中也はそれを素直に信じていた。

芥川と綴の間に隔たりができてしまったのは、もちろんあの一件のせいではあるのだが、その責任の一端は自分にもあると中也は思っていた。いや、そもそもは勝手にいなくなりやがった太宰が悪いのだが。あのとき、もっとうまい立ち回りができたのではないか、とか、引き留めてでも誤解をとくべきだったのではないか、とか。いずれにしても、いくら考えても解決しない案件ではあった。




──それに。




『芥川先輩、この間笑ったんです。青空幹部も笑ってて。ふたりの間になにがあったのか、私は知りませんけど、本当の、姉弟みたいだなって』




あんなふうに樋口が話すのなら、きっともう大丈夫なのだろう。そう信じたいし、なによりあんな悲愴に泣く綴を、中也はもう二度と見たくなかった。




──もうあと一度でも泣かせやがったら、容赦しねェ。





───

中也は知っていた。綴はうまく隠したつもりだろうが、実際最近の森と彼女は険悪な雰囲気が漂っている。いや、綴が一方的に漂わせている。

けれど、森は綴に対して慈愛を持っていることも、中也は知っていた。本当の娘のようにかわいがっていることも、心配していることも、なにか自分の知らない秘密について、一等のやさしさを保持していることだって。

──組合のふたりを襲撃する作戦に綴を無理に参加させたのは、芥川との仲を修復するためだったことも。

綴には、芥川が必要だった。〝弟役〟としては適役だろう。そう考えたであろう森は、やはりどこまでも残酷だ。





──闘いはまだ、終わってねェ。




──綴にはつらいだろうが……。




──赦せ。





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