第7章 サーカス
「──芥川、」
腕の中の身体がびくりと震えた。さらに強く抱きしめれば、蒼白い指先が綴の手に触れる。今度は綴が震える番だった。
一方で、芥川は困惑していた。いったい彼女はどうしてしまったというのだろうか。ここ最近、いいや、自分を弟のように可愛がってくれていた頃でさえ、こんな触れ合いはなかったというのに。
けれど、芥川は綴が人間に対して不器用であることを知っていた。立ち回りはうまい。誰に対しても分け隔てなく接することだってできる。それでも、相手が近しい存在であればあるほど、彼女が接し方を深く考えすぎてしまうことを芥川は知っていた。
「……ごめん、ね」
綴は自分でも口に出してから主語がないことに気がついた。これではなにに対して謝っているのかもわからない。けれど、芥川にはわかってもらえる気がした。
はたと、芥川が身じろぎをやめたのに気づく。おそらく彼は考えている。綴がなにに対して謝っているのかを。
──あのね、芥川。
──わたし、もう知ってるよ。
「……あったかいね」
芥川が目を見開くのが気配でわかった。その、動きのひとつひとつまでが記憶に残って、容量を大きく使ってしまう。いつもは目を閉じてなるべく情報量を減らすところだ。でも、今はすべてを憶えていたかった。
「僕は……」
何かを言いかけて、途中でやめてしまう。それでも、綴には何が言いたかったのかわかった気がした。
「帰ろう、芥川」
──わたしたちの、居場所に。