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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第7章 サーカス






男は自身が所属する組織の幹部に呼び出されて、ポートマフィア拠点の屋上へと向かっていた。
心当たりはあった。男は組合に金を積まれて雇われた間諜だった。

それでも男には誤魔化しきる自信があった。
男が調べた限り、自分を呼び出した青空綴という女幹部は、森鴎外に甘やかされた正真正銘の温室育ち。間諜としては百戦錬磨の自分に騙せないはずがないと男は信じてやまなかった。

そして彼女のいちばん近くにいるのは中原中也という男。これまた幹部だが、中原には決定的な弱点があった。それが青空綴である。互いが互いを弱点とし、そして甘くなる。その上中原は部下にも甘い。男はふたりを騙しきって情報を持ち帰る手筈だった。

そもそも拷問部屋に連れていかれない時点で疑われていないも同然だ。



「これはこれは青空幹部。まさか下っ端の俺に貴女から直々のお呼び出しがあるとは思いませんでしたよ」

「やあ。きみの名前は知らないけど、用があるんだ。そう時間は取らせないから話だけでも聞いてくれないかな?」

「もちろんですよ。もとより俺に拒否権はないでしょう」



あはは、と綴は笑って、スっと目を細めた。その姿はひどく妖艶で、男は少し恐ろしくなった。



「──きみさ、間諜だよね」

「……いやだなあ、青空幹部。急に何を言い出すんです? 間諜を探しているんですか。間諜なら俺ではなく……ああそうだ、中原幹部なんて怪しいじゃないですか。幹部にもなって間諜かもしれない男と貴女をふたりで合わせるなん、て……ッ」



男が息を呑んだ。綴が男に銃口を向けたからだ。



「悪いね、きみが間諜であることは確定なんだ。きみの個人端末をクラッキングしたからね」

「個人端末!? いったいいつ、」

「この拠点内、ならびに管轄内にはわたしの仕掛けた監視カメラが多数ある。駄目だよ、気を抜いて個人端末に触れたら。

だからきみが間諜に間違いないし、ほんとなら尾崎さんの班に預けて拷問するところなんだけど……、気が変わっちゃった」




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