第7章 サーカス
──〝一番遣る気のある子〟
それが誰を意味するのかなんて、綴にははじめからわかっていた。けれど、止めなかった。深傷を負った、その身体が未だ癒えていないことも知っていて、それでも止めなかったのは、森の言葉が正真正銘本物だったから。
芥川に遣る気があることなんて、綴がいちばんよく知っている。身体が強くないことを気にしているのだって、それでも強くなろうとしていることだって、ぜんぶ知っているのだ。
──わたしに、止める権利なんてない。
それが紛れもない芥川自身の意思ならば、綴に止められるはずがなかった。太宰の背を追いかけるのだって、綴には理解すらできないけれど、止められない。ここまで拗らせてしまったのはほかでもない綴だから。
──だから、せめて。
せめて、少しでも近くで見守らせてほしかった。それは、強情になって突き放してしまった綴の最後の姉心だ。
───
衝撃音をどこか上の空で聞く。
戦いが終わったあと、立っているのは芥川であろうことはわかっていた。ホーソーンは強いけれど、芥川だって強い。異能のポテンシャルは互角。それでも、芥川の意思の強さと、なにより憧れに強く願う姿はホーソーンにはないものだった。
──それに。
綴は思う。彼はきっと、いとも容易く芥川の地雷を踏み抜くのだろうと。ホーソーンは敗北を知っている。それでも後に退けないのは、彼のプライドか、それとも組織への忠誠か。そこまでは綴にもわからなかった。
──心配だよ、芥川。
きっと、この戦いで芥川の傷口は開いてしまう。それ以外にも新しく傷をつくるだろうに、前に進もうとする姿勢は変わらない。綴は心配でたまらなかった。身体に空いてしまった穴は、そう簡単にふさがらないから。
──嗚呼。森さんが、わたしをこの戦いに出したかった理由がわかった。
──わたしが、敵の前では限りなく無力であることを、知らしめたかったんだ。
──本当に、わたしは無力だなあ。
──ただ、そこに立っているだけのお飾り。