第2章 かの女
綴が与えられている部屋に戻ると、机の上にやけに上品な封筒が置いてあった。ご丁寧に蝋で封がしてある。
差出人の名前はない。代わりとでもいうように、宛名もなかった。
──太宰、か。
こんな手の込んだことをするやつはひとりしかいない。
この部屋に仕掛けておいたカメラを脳内で再生する。綴がちょうど執務室に向かったあたりの時間に、大きらいな包帯男が映っていた。ご丁寧にカメラに向かってピースまでしている。
──うわ、最悪。ほんと最悪。
なにが書いてあるのか、見当はついていた。太宰から、しかもこの時期に。となると内容はあれしかない。
──開きたくないなぁ。破り捨ててしまいたい。いや、いっそ焼いてしまいたい。
そうは思いながらも、綴は乱雑に封蝋をむしりとった。
〝私は今夜、この組織から出ていく〟
──あぁ、やっぱり。
〝賢いきみのことだ。自分がどうすべきか、わかっているね?〟
──わかってるよ。この組織が、わたしに向かないことくらい。
──わたしが、非情になりきれないことくらい。
綴は、ふん、と鼻を鳴らしたあと、手紙を破って、火をつけるためにライターを取り出した。
──太宰、きみはひとつ重要なことを忘れているよ。
そこがどんな組織であろうとも、惚れた男がいるのなら、女に選択肢はない。たとえ、途中で死ぬかもしれなくても。
──いや、たとえ死んだって、中也が悲しんでくれるのなら、わたしはそれでいい。