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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第7章 サーカス






綴の不機嫌には理由があった。その大半が森だ。この作戦には、芥川が主戦力として参加している。森がそうさせた。芥川が自分から志願するように〝仕向けた〟のだ。芥川の傷はまだ完治していないのに。そして、それを止められなかった綴自身も。





──いらいらする。






どうせなら、感づかせないようにやればいいのに、と思った。森の頭脳をもってすれば造作もないことのはずなのに、と。感づかせて、なおも言いつのる。

──おまえには、理解したところでなにもできない。

いやけが差した。そのとおりだったから。きっと森は、綴と中也を引き剥がしたい。それならいっそそうしてしまえばいいのに、どこかで遠慮している。それは、綴の異能にか。それとも綴の運命にか。




「ねえ、梶井」



綴の声に反応して、爆弾魔が振り向いた。つんと薬品のにおいがかすかに鼻腔をかすめる。声音が硬いのに気がついたのか、梶井は黙ったままだ。



「梶井は神さまを信じるよね。そして、科学を信仰してる。ふたつは言わば対極なのに、いったいなにが梶井を突き動かしているの?」



梶井はなにも言わなかった。あれで頭のきれる男だ。質問の真意も読めないまま、答えを出すのを躊躇っている。いつもの押せ押せな梶井からは想像もできない真面目な顔だ。



「わたしはなにも信じてないよ。神さまも、自分も。ただひとつ信じるとすれば、それは最愛のひとの言葉だけ。その言葉の対極に、いまはわたしが立っている。わたしのしてきたことは、間違いだったのかな……──」




ふいに風が強く吹き、青いスカートを翻した。なびいた栗色の髪を抑えてビル群を見据える綴の横顔がやけに緊張を帯びていて、梶井は言葉を失った。伏せられたまぶたの下で、翡翠が痛々しげに光っていた。



「……なーんちゃって! なんでもないよ。さぁ、行こうか。任務はまだこれからだよ」

「……青空幹部が仰るのならそうに違いありません! 〝例のモノ〟も多く用意しました! 手内職の腕が光るというもの!」

「そうだね、──期待してるよ、きみの異能には」






──梶井、変に空気を読ませてごめん。




──きみにも、答えは出せなかったね。




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