第7章 サーカス
「よし! 探偵社の社長を殺そう」
そう、森が無邪気に言ったのを、綴は冷ややかに見つめていた。中也はそれに驚いたようだったが、綴はただ先ほどからの視線を変えようとしない。綴にとって、森への視線はもはや尊敬も敬愛も持たないものへと変化していた。
綴の忠告を聞かずに鏡花のもとへと向かった尾崎が探偵社の捕虜になったらしい、という話を綴が知ったのは、夜叉と対峙した日から1日経ったあとだった。探偵社の迎撃に加え、組合の横やりも入ったのだ。いくら実力者とはいえ分が悪い。だから言ったのに、と綴はため息をついた。
──尾崎さん、そこはひどく居心地が悪かろうね。
尾崎が敦を襲ったあたりは道が広く人通りも多い。つまり、いくら夜の街を牛耳っているとはいえポートマフィアには明るすぎる場所だ。まったくの管轄外である。それゆえカメラは仕掛けられておらず、尾崎の着物にこっそりと仕掛けた盗聴器のみが綴の情報源だった。
組合襲撃に関わっているのはおそらく六人。
──ジョン・スタインベック。
異能力『怒りの葡萄』
──ハワード・フィリップス・ラヴクラフト。
異能力……不明。
──マーク・トウェイン。
異能力『ハック・フィン&トム・ソーヤ』
──ハーマン・メルヴィル。
異能力『白鯨』……ただし詳細は把握できず。
──ナサニエル・ホーソーン。
異能力『緋文字』
──マーガレット・ミッチェル。
異能力『風と共に去りぬ』
脳内で資料をパラパラとめくる。ざっとこんなものだろうか。中也に伝えた情報はきっと森にも伝わってしまっているはずだから、生存兵から得た情報と照らし合わせてこのくらいのものなら把握済みだろう。
それよりも、と綴が眉をひそめる。
とてつもなくいやな予感がした。その正体はきっと森だ。あれもこれも、それもどれも、ぜんぶ森のせいだ。そうに違いないと勝手に結論づけてかぶりを振る。中也は暗殺部隊の手配に行ってしまったし、自分を助けてくれる者はここには誰もいないのだ。
──わたしに言うことを聞かせたいなら、まだまだ甘いよ。
──だからきらいだよ、森さん。