第7章 サーカス
綴は尾崎を見つめた。その眼は据わっていて、いつ殺気を纏ってもおかしくない状態だ。
尾崎が昔の自分と鏡花を重ねるのはいっこうにかまわない。組織にいる以上、そうしてかわいがってくれる先輩が鏡花には必要だった。けれどそれはあくまで組織にいる前提の話だ。鏡花は自分自身の意思で組織を抜けたのだから、もう尾崎の出番ではない。
自分を重ねることで鏡花の成長を止めてしまうなら、それは昔、尾崎を連れ出そうとした男を殺した、とある組織のとある首領と同義の行動である。
「いちばん大事な質問をするよ。尾崎さんは、鏡花に昔の自分を重ねてるよね?」
この質問は、疑問の形をとっていても、確信を伴っていた。そうであることは綴には最初からわかっていた。
尾崎が息を呑む。けれど射抜くような視線は変わらない。互いに互いから眼を反らせないまま、対峙する気迫すらも置いてきぼりになっていた。
「それが、……どうしたというのじゃ。私はただ、あの子が傷つかぬように、」
「それじゃあだめだよ、尾崎さん。鏡花は尾崎さんとは違う。いまと昔じゃ時代も違うし、上に立つ人間も変わってる。重ねるのは別にいいよ。でも、同じだと考えちゃいけないなあ」
「──黙れ。黙らぬというなら、私にも考えが、」
「あはは、怖いなあ。ここはいったん黙るとするよ。けど、──最後にもうひとつだけ。尾崎さんは、鏡花が幸せになれるなら、そこが光でもいいと思う?」
「……勿論じゃ。そんなことはありえぬがのう」
尾崎はようやく殺気をしまい、綴から視線をはずした。それは、綴の方が正しいと、心のどこかで認めているようにも見えた。後ろめたくて、だからこそ見ていられない。正しいものはいつだって眩しいものだ。
──ありがとう、それが聞けて嬉しいよ、尾崎さん。
──この闇社会で成功した尾崎さんならわかるはずだよ。
──言葉は、重い。いま言ったこと、忘れないでね。