第7章 サーカス
間もなくしてデザートが運ばれてきた。季節のフルーツとチョコレート、抹茶のケーキに美しい練りきりの盛り合わせ。目にも鮮やかな彩りが皿の上で躍っていた。
「わ、きれい……!」
「そうだなァ」
酒好きである綴も中也も、紛うことなき辛党である。底抜けに甘いよりは、ほろ苦くビターなものが好きだ。しかし綴はチョコレートは甘い方が好きだった。だってチョコレートは甘いものだから。そうあるべきだと思っているから。
一方の中也は、カカオ80%のものが好みである。酒と煙草の副産物だろうが、たとえ中也の好みでも、こればかりは譲れない。綴はチョコレートの甘い口づけが好きだから。
「ねえ、中也──
──だいすきだよ」
ハッとして中也は綴を見た。けれど綴は相変わらずの笑顔のまま。その真意は読み取れない。
中也は知っていた。綴がこうして笑うときは、必ずなにかが隠されている。けれどそれに見て見ぬふりができるかが試されている。なにが隠されているのかはわからない。中也には、いつも綴が考えていることの半分も理解できていないのが実情だ。そして、太宰なら理解が及ぶことも悔しかった。
これからなにが起こるというのだろう。組合や探偵社との鼎立か? はたまた自分などには到底想像もつかない大規模な騒動か?
──いずれにしても、俺にできるのは闘うことだけだ。
「──あぁ、そうかよ」
綴は、その答えに満足げに笑って、何事もなかったようにチョコレートにフォークを突き立てた。