第7章 サーカス
「──! おいしい」
「だろ?」
中也の連れてきてくれた店は、ビルの高層階にあるしゃれたレストランだった。魚料理が評判らしいそこは、本当に魚がおいしかった。
じつを言うと、綴は肉より魚が好きだ。さっぱりしていて、脂っぽくなくて、食べやすい。とくにこの店は旬の食材を使っていて、ほどよく脂ののった魚肉がよく合う。つけ合わせの野菜も好みの味つけだった。
中也も綴と同じコースのメインを食べながら、ワインを傾けていた。綴は酒は好きだが詳しくない。それに、中也といるときはあまり酔いたくなくて、どんなにおいしい酒も遠慮してしまう。
──だって酔ったら、なにするかわからないし。
酒というのは理性を飛ばす。家ならまだいい。しかしここは中也行きつけの店というし、醜態を晒したくはない。そもそも綴はどんなに酔っても翌日記憶はしっかり残る。二日酔いの頭痛とともに恥ずかしい思いはしたくない。
「ね、中也」
「なんだ?」
「連れてきてくれて、ありがとう」
綴は大きく笑った。夜景のきらめきを背負って。中也はそれにそっけなく返し、曖昧に笑った。綴はそれを、どんな料理の味より、鮮明に記憶に刻み込んだ。