第7章 サーカス
「そろそろ、帰ろうか」
「あ? こんなんでよかったのかよ」
「うん。ただ、中也との時間がほしかっただけなの。ほら、これから忙しくなりそうだから」
ワンピースのすそがひらひらと風にはためく。海の青が、少しだけさみしい。砂浜に足をとられて、転ぶ夢を思い出した。いつか綴が自分を見失った日にみた夢だ。なにもかもを棄ててしまえれば。けれどそれは無理な話だった。綴にとって、中也は棄てることもできない宝物。
「なら飯、喰って帰ろうぜ」
「いいの!?」
「ああ。手前が買ったのは、俺の時間を夜まで、だろ?」
『あー、こっからならどこがいいンだ?』と端末を操作する中也が、夕陽を背に輝いているのがわかる。中也はいいものには金を惜しまない男だ。衣類も、家具も、雑貨も、もちろん食べるものにも。
中也が連れていってくれる店はどこもおいしくて、綴は好きだった。高級感のある店ばかりだけれど、値段を気にするのは野暮だと思って綴はなにも気にせずにどの料理もおいしくいただいた。そうやっていつも美味しそうに食べる綴の姿が、中也は好きだった。
「さ、行こうぜ」
「──うん!」