第7章 サーカス
「ほら、中也! 早く早く!」
「ンなに急ぐなッて。あ、おい引っ張んな!」
「あはは、楽しいね、中也!」
モダンなタイル張りの道を、中也の手を引いて駆ける。
中也には着替えてもらったので、いつもよりカジュアルな装いになっている。普段の外套姿も格好よくて好きなのだけど、昼の街中では目立つ。その点綴は着替える必要はないのだが、いちばん気に入りの真青なワンピースを着込んだ。中也の眼の色が、綴はいっとう好きだった。
「どこに行きてェンだよ」
「どこへでも! 中也と一緒に、ずっと遠くまで!」
綴は笑った。中也を振り返って、両手を広げる。すべてを抱きしめられるくらい大きく。
──あのね、中也。この世界は、こんなにも広いんだよ。
綴にはわかっていた。これからはじまる戦いが。これからすごくすごく忙しくなるであろうことも。だからせめてその前に、中也とふたりきりの時間がほしくて。
中也もうすうす気づいているようだった。綴がどこか、寂しさを感じていることまで。だからなにも訊かずに着いてきたのだろう。
「ね、中也! 海に行こうよ!」
──中也の眼の色を、いちばん近くに感じられる場所に行こう。