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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第6章 骨






あれから、少しの時が経った。
綴が執務室でこれからのことを考えていると、黒蜥蜴の連中と樋口の声が聴こえてきた。




『姐さん 正気か? 自殺行為だぜ』


──すでに〝カルマ・トランジット〟は動いている?


『芥川の兄人を拐ったのは〝カルマ・トランジット〟の残党が雇った国外の傭兵だ。数が揃ってるうえ重火器でこれでもかって程武装してやがる』


──なかなか、厄介だね。



綴は声を聴きながらその場所に向かっていた。止めるためではない。背中を押してあげるために。



『直に首領から奪還作戦の指示が来る。それまで待てよ!』


──いや、もし本当に、森さんが〝患部〟を〝治療〟するのなら。


『指示は永遠に来ません。芥川先輩個人を襲った密輸屋に対し組織をあげて反撃すれば 他組織に飛び火して大規模抗争になる。それを避ける為 上は構成員個人の諍いとして棄て置く心算です』



綴が聴く声と聞く声が重なった。あとは盗聴音声の電源を落とすだけ。



「芥川先輩は切り捨てられた」

「──その通りだよ」

「! 青空幹部!」



樋口がこちらに気づいて頭を垂れる。次いで立原、広津が深々と腰を折った。それをものともせず、綴は樋口を見つめた。



「芥川は見放された。森さんは、組織のためならひとりを見棄てる男だよ」

「ですが!」

「最後まで聞いて樋口。わたしは止めに来たんじゃないよ。──行っておいで」



樋口が驚愕の表情を浮かべる。それもそのはず。綴もまた幹部であり、組織を守る側の立場の人間であるからだ。



「言ったでしょ? わたしは組織の前に部下を守る立場にいるよ。全力で庇うし、匿いもする。責任はわたしが取るよ。わたしは戦闘ができないから、こんなことくらいしかできないけれど、──行きなさい」

「っ、ありがとうございます!」

「だが、アンタ一人如きで何が出来るんだ」

「……何も出来ません」



樋口はようやく肝が座ったようで、立原を振り向いて答えた。



「でも何もしないなんて 私には無理です」



走り出した樋口の背中を見つめて、広津が言った。



「よかったのですか」

「よかったんだよ。それに、──わたし、芥川を一発殴ってやらないといけないんだよね」




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