第6章 骨
『何してる阿呆が! 船が沈むぞ!』
──行かないで。行ってしまわないで。
『この怒阿呆! どれだけ社に迷惑を掛ける気だ! 社員全員只働きだぞ! 早く乗れ!』
『彼女は──』
──人虎、お願い。
『あの娘は諦めろ! 善良な者が何時も助かる訳ではない! 俺も何度も失敗してきた!』
──敦、お願い……!
『そういう街で そういう仕事だ!』
『彼女は……助からない?』
『そうだ! 俺達は超人ではない! そうなら善いと何度思ったか知れんが違うんだ!』
『彼女は──』
──どうか、鏡花のヒーローに……!
『僕と食べたクレープを 〝おいしかった〟と。無価値な人間には 呼吸する権利も無いと云われて── 彼女は 〝そうかもしれない〟と』
──嗚呼。
『僕は……違うと思う! だって太宰さんは── 探偵社は僕を見捨てなかった!』
──太宰、きみはなんて罪な男なの。
『僕── 行ってきます!』
敦の叫びが、綴の慟哭と重なる。こんな少年、されど太宰が新しい時代に選んだ少年だ。綴には痛いほどわかる。この、大きな心の少年の価値が。
『走れ敦!!』
──一度でも疑ったわたしを、どうか赦して。