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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第6章 骨






「あれ、中也。どうしたの、こんなところで」

「あ? あぁ、綴か」



地下の薄暗い中でもいとしいひとの姿はよく見えるものだ。あれだけ機嫌が悪かった綴も一瞬で本物の笑顔になる。



「どうもこうも、いやがらせだ。綴こそ、いやがらせか?」

「んーん、捕虜がわたしと会いたがってるっていうから。……あれ? いやがらせ、ってまさか……」

「ここにいンのは太宰だ。知らねェで来たのかよ?」

「……何にも知らされてなかった……」



綴はだらりと項垂れる。気分が冴えなかったのはこのせいか。思えば自分に会いたがる捕虜なんて規格外が過ぎる。その時点で疑いを持つべきだった。




──それにしても、太宰か……。




太宰は綴の頭脳を持ってしても理解不能な人間だった。同じ生物とは思えない。けれど常人では理解できない太宰の考えも、自分には70%ほどなら理解できてしまうというのが綴の目下の悩み事だった。




──つくづく縁がある。そんな縁、いらないのに。




「俺は行くぜ。綴は、会いたくねェなら無理に会う必要はねェ。てか会うな」

「あはは、心配してくれてありがとう。そうするよ。──ッ!」

「綴!? どうした!?」

「あ、はは……ちょっと、頭痛がね……。うん、でも大丈夫。中也は早く、太宰にひと泡吹かせてやってよ。わたしは──ちょっと行くところができたから」



そう言うと、綴は少しだけ表情を曇らせて、それから青いスカートを翻して中也に背を向ける。中也の心配する声が聞こえたが、いまはそれどころではなかった。あとで謝っておこうと思う。


綴が頭痛とともに関知した映像と音声。密輸船の上での死闘と、鏡花の危機。いますぐに行かなくては。そうでないと──後悔する気がして。芥川のときの二の舞にはなりたくなかった。




──ごめんね、中也。



──もしかしたら、この騒動も、太宰の予測の内なのかもしれない。



──それでもわたしは行くよ。



──もう二度と、後悔だけはしたくないんだ。





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