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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第6章 骨







「あァ──こちら車掌室ゥ」



車内放送が響く。梶井の耳につく声を聞き流しながら、綴は車輛の後方で、鏡花と話をしていた。



「鏡花、きみは幸せがわからないと言ったね」

「………」

「行っておいで、鏡花。そしてもう二度と戻って来ちゃ駄目」

「……私は、」

「行きなさい。わたしはずっと、鏡花のことを想っているよ」



綴に背中を押されて鏡花が車内に躍り出る。困惑した顔の鏡花はまだなにか言いたそうだったけれど、綴はそれを見なかったふりをした。




──これで、よかったんだ。



車内にいれば、鏡花は確実に人虎──中島敦と出会う。敦はきっと、どこからきているのかわからない正義感に突き動かされて鏡花を救うだろう。綴が中也に救われたように。



──それは孤児ゆえか、あるいは、虎のさがなのか。




──なーんちゃって。




綴は車窓からふわりと飛び降りた。




「幸せになるんだよ、鏡花。きみがきみであるために」




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