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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第6章 骨






「梶井ー!! あれ、梶井? いないの?」



梶井基次郎を呼びに綴が彼の実験室を訪れると、扉には鍵がかかっており、曇りガラスの中も窺えなかった。

と、そのとき。



──ガシャン!! ド、ガラガラガッシャン!!




「きゃあ!」


耳がいい綴は脳天を突き抜けるような衝撃音に目を瞬かせた。

実験室の中は梶井の領域で綴はほとんど踏み込んだことがない。なぜなら四六時中薬品の異臭がするし、うっかり触れただけで爆発するようなシロモノがごろごろあるからだ。

けれどこの爆発音は、なんのことはない、いつもの梶井の暴走劇だ。踏み込まないわけにはいかない。綴は最小限の力で扉の鍵を壊した。



「げほげほ、げほっ、──梶井! まぁたきみはなにを爆発させたの?」

「これはこれは青空幹部殿! 学究の徒である僕が実験する題目なんて──それはつまり科学の究極! 『神』と『死』に於ける不可逆的な──」

「あぁ、いいよ。どうせ聞いてもわかんないし」



自分で訊いておきながらひと言で片づけてしまう綴に梶井は不服そうだが、破綻者の彼でも礼儀はわきまえているらしかった。そういえば、なんだかんだ言いながらも梶井が森に逆らったところを見たことがない。マフィアの掟をよく知っているからなのか、あるいは。




──科学にのみ従属する姿勢はきらいじゃなかったんだけど、結局梶井もその程度の男、ってことかな。




「ねぇ、梶井。梶井のポリシーはよぅく知ってるつもりだよ。だからこそ、梶井にひとつ話があるんだよね」

「ほぅ、この僕に話とは? やはり青空幹部殿も科学の素晴らしさに目醒めて──」

「ちがうちがう。もっと大事な話だよ。ねぇ梶井、──





──実験サンプル、モルモットは足りてる?」




にんまり、と、梶井が笑った。



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