第6章 骨
「尾崎さんに、かわいがってもらってるみたいだね」
尾崎の名前を出した途端、鏡花の身体がびくりと震えた。
尾崎紅葉はポートマフィア五大幹部のひとりで、花魁ことばが特徴的な妖艶な女性である。和服を着こなす赤髪に憧れる者も少なくはない。そしてなにより──中也の姉貴分である。
尾崎は鏡花と似た異能力を持っているため、鏡花の教育に多大な尽力をしている。が、とても厳しく、かつ残酷な一面を持っている。鏡花にも、本気の殺し合いのような演習を強いているのかもしれない。
「尾崎さんは、光に焦がれて希望を打ち砕かれたひとだよ。だからあんなに闇にこだわるし、光を怖がってる。もしかしたら、鏡花はなにも知らないままの方が幸せかもしれない。外は怖いよ。光は怖い。それでも、ここは鏡花の居場所じゃない」
「………」
「わたしは悪い大人だね。知らない方が幸せだ、なんて言いながら光を教えようとしてる。わたしは鏡花に幸せになってほしい。矛盾してるね? だから怖いよ、光は」
言っていることが正反対だなんてことは綴にもわかっていた。けれどそれ以外に伝えるすべがなかった。
「鏡花、外に出て。光を夢みて。そうして外で幸せになって。わたしはもう、外には出られないから。だからわたしの分まで、光を浴びて!」
「……なんで、」
「そんなの決まってるよ。わたしは──この闇の中以外では、幸せにはなれないから」
つい最近も、鏡花は任務をこなしていた。それは珍しく殺しではなかったようで、〝とある〟人物を拉致するというものだったらしいけれど、綴は教えられていなかった。調べようにも誰のどの端末をハックすればいいのかわからずになにもできていない。
「どうしてわたしがここに来たのか、わかる? 知りたい?」
「……はい」
「ごめんね鏡花。──次の任務だよ」
そう言って、綴はひどく痛々しく笑った。