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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第6章 骨







「──ひとりぼっちの人間は、自分にとっての光を探して彷徨い歩くんだよ。ひとりぼっちだから、孤独を埋めたくて。一生のうちでそれを見つけられる可能性は五分五分ってとこだけど、もし、見つけられたら。それはとっても素敵なことだと思わない? ──





──ねぇ、鏡花」


「……わからない」




ポートマフィア拠点、広いビルのその地下には、ごく限られた人間しか入れない空間がある。光が入らず、小さな白熱電球があるのみ。薄汚れていて、寂れた場所。まさにポートマフィアという闇の中の錆。

──泉鏡花。

通称35人殺し。強力かつ残忍な異能力のせいで、ポートマフィアの都合のいい駒になってしまっている。任務を与えられれば殺しをし、またこの地下牢に幽閉される日々。わたしだったら耐えられない、と綴は頭を振った。




「鏡花、ここは闇だよ。光なんてものはない。だからここは──鏡花のいるべき場所じゃないよ」

「……わからない」

「……そうだよね、鏡花はここしか知らない。ここには闇しかない」




鏡花の瞳にも光はなかった。あるのは、途方もなく深い闇。痛々しいほどの深淵。

誰かが言った。

〝深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ〟




「ここの闇は孤独だよ。悲しいも苦しいも恐怖もない。ただ、昏くて孤独なだけ。鏡花に寄り添ってくれる殊勝な人間は、ここには誰ひとりいない」

「………」

「わたしがそうなってあげられたらよかったんだけど……ごめんね。わたしは鏡花の痛みをわかってあげられないから」

「……どうして」



は、と綴は鏡花を見た。いままで〝はい〟〝いいえ〟〝わからない〟しか言わなかった鏡花が、はじめて自分の意思で声をあげたから。



「わたしは……わたしには、孤独を埋めるものがここにあったから」

「………」



綴にとって、それは中也だ。自分にとっての存在意義であり、存在価値であり、存在証明である中也。あぁ、鏡花にとってそれが自分であったならどれだけよかったか!



「ごめんね、鏡花」




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