第5章 秋日狂乱
ところ変わって、綴は森の執務室を訪れていた。結局最後まで死屍累々の山を救けなかったらしく、自力で帰還できた者はほとんどいない。そんなやつらには目もくれず、綴はただ冷ややかな目で森を見つめていた。
「さて、今回きみを呼んだのは、ほかでもない樋口くんのことだ」
「わたしは反対だよ」
森が本題を切り出す前に綴が先回りする。冷戦状態のいま、森の提案すべてに反対する用意はあるが、この話題は樋口の進退についてだろう。馘首にするか、そのままか。おそらく森は前者を選ぶつもりだ。そんなの反対に決まっている。
「きみの意見は訊いていないよ。これは決定事項だ」
「樋口を馘首にするって? いままでいいように利用してきたくせに? 呆れたよ。それが組織の上に立つ人間のすることなの?」
「早合点しないでくれ。条件をつける。今後の働きによっては考え直そう」
「それで暗殺部隊にでも働きかけて、あくまでも自分は味方のまま処分するの? そんなのあり得ないよ。わたしは反対するし、樋口を守る。森さんはあまりに自分勝手だよ」
綴の冷たい視線は変わらない。森のことが堪らなく憎かった。幹部にまでなってやったのに、自分はおろか中也や樋口まで喰い尽くそうとする森が。言うことをきかせようと、森がいつか自分から大切なものをなにもかも奪っていってしまうような気がして。そんなの耐えきれるはずもない。
「綴、聞き分けなさい」
「まだ親面するの? わたしの異能がなければ組織も守れないのに? 馬鹿げてるよ。このままじゃ──
──先代と同じだよ」
「……綴くん。出ていきたまえ」
「言われなくても」
綴が執務室をあとにする。早くなんとかしなくては。その思いに背中を押されていた。
「私だって、やりたくてやっているわけじゃない。綴があくまで幸せに終われるのなら、私は鬼にでも成ろう」