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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第4章 六月の雨






「──知ってるよ その位」


太宰が頭を掻きながら言う。きっと太宰にも、いまの情景は綴と同じように見えているのだろう。綴にはそれがとてもいやだった。〝あの〟太宰と考えが同じ? 吐き気がする。



「然り。外の誰より貴方はそれを悉知している──




──元マフィアの太宰さん」



正体を言い当てられても太宰はうすく笑ったままだった。この余裕綽々な笑みが心底腹立たしい。いつか目にもの見せてやりたいけれど、そんなことが不可能なのは綴がいちばんよく知っていた。口では綴に勝てなくても、それは綴の方がよく口が回るだけであって、実際頭が回るのは太宰の方だ。




「嗚呼、漸く逢えたんだ。綴、今日こそ私と心中を!」

「いやだよ。四年経ってもわたしの気持ちは変わらない。わたしが好きなのは中也だけだよ。何度も言わせないで。それに──、もう、黒には厭きたんでしょう?」



太宰が着込んだ砂色の外套を指差して言う。その辺のごみを見るような眼は四年前と何ら変わっていない。吐き棄てるように言って、綴は颯爽と路地を抜けていってしまう。芥川と樋口もそれに続いた。








「あの女性はいったい……」

「あの娘はね、──私が、欲しくて欲しくて堪らないものだよ」



──やはり、綴は連れていくべきだった。




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