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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第4章 六月の雨







「そうですね……、太宰さん 今回は退きましょう──」



綴に少しだけ目線をくれて、芥川が言った。



「しかし人虎の首は必ず僕らマフィアが頂く」





──芥川、せっかくの再会なのに、いいの?



──なんて、わたしが言えた義理でもないか。




四年前の悲痛な芥川を思い出す。あの頃はまだ純粋さがあった。けれどいまはどうだろう。その異能のせいで有能な殺し屋として森にいいように使われている。綴はそれが赦せなくて、でも四年前に芥川を突き放した手前、表だって庇うこともなかった。




──ごめんね、芥川。




「なんで?」

「簡単な事。その人虎には──闇市で七十億の懸賞金が懸かっている。裏社会を牛耳って余りある額だ」

「へえ! それは景気の良い話だね。綴かい?」




──ここでわたしに振るなんてね。すべて見越しているくせに。




「調べたのはわたしじゃあない。こっちの世界では有名な話だよ。みんな血眼になって人虎──中島敦を探してる」

「それできみは──綴はその情報を売るかい?」

「まさか。売らないよ。太宰とやり合うなんて御免だからね」




綴はにこりと笑って太宰に背を向けた。




「探偵社には孰れまた伺います。その時素直に七十億を渡すなら善し。渡さぬなら──」


「戦争かい? 探偵社と? 良いねぇ 元気で




……やってみ給えよ──やれるものなら」



太宰と芥川の応酬を、綴は冷ややかな眼で見つめていた。綴にとっては〝戦争〟なんて別にどうだってよかった。ただ、これで自分と中也を困らせるタネが増えることに心底辟易していた。



「………ッ、零細探偵社ごときが! 我らはこの町の暗部そのもの! 傘下の団体企業は数十を数え この町の政治・経済の悉くに根を張る! たかだか十数人の探偵社ごとき──三日と待たずに事務所ごと灰と消える! 我らに逆らって生き残った者などいないのだぞ!」



──よく喋るなあ、樋口。



綴にはその姿がひどく滑稽に見えた。〝零細探偵社ごとき〟に『勝てぬ』とよりによって芥川に言われたせいか、樋口は自棄になっているようにも見えた。まるで駄々をこねる幼子のように。



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