• テキストサイズ

【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第4章 六月の雨






なにやら言い争っている声が聞こえる。綴が見ているとも知らずに戦闘をはじめてしまったようだ。



「我が主の為──




ここで死んで頂きます」



ジャキ、ド、ドドドドドド──硬い音をたてて、樋口が銃を乱射した。両手から全身にかけて放たれる衝撃は凄まじいもののはずなのに、樋口はそんなことを気にもせずに撃ち続ける。同じ女であるのに、綴は自分と違うものを見ているような錯覚に襲われた。





──やっぱり、わたしとは違う。努力の量も、矜持も。でも……。





──あれじゃあ駄目だね。人虎は生捕りの命だ。はしから撃ち殺す勢いじゃない。





ふ、と綴は笑った。やっぱり樋口は自分とは違う。それは努力の量の差か、矜持の差か。いいや、そんなものではない。

──頭の出来が違う。

予測も予想も下調べも、なにも足らない。得意分野でないと言えば最後だが、綴にはそれがひどく愚かに見えた。





「───ナオミッ!!」



兄をかばった気丈な娘が血みどろで倒れる。最愛の妹を救わんと谷崎は叫んだ。恐怖で腰を抜かした敦に。


「し 止血帯! 敦くん 止血帯持って無い!? いや先ず傷口を洗ッて……違う。与謝野先生に診せなきゃあ……。い 医務室まで運ばないと! 敦くん足持ッて──」


取り乱す青年を見て、綴は唇を引き結んだ。たしかに人虎以外はどうしてもいいとの通達だったけれど、さすがにこれはやりすぎに思う。このままでは、兄の目の前であの娘は死ぬ。むごたらしく死んでしまう。





──って、それがポートマフィアだったよね。そういう場所だ。……だから、わたしは非情に成りきれない。





「そこまでです」


樋口が谷崎の頭に銃を突きつけた。ガチャガチャと硬質な音が耳に毒だ。綴はそっと、耳を塞いだ。


「貴方が戦闘要員でないことは調査済みです。健気な妹君の後を追っていただきましょうか」

「──あ?」




突如谷崎の雰囲気が変わった。ゆらりと立ち上がったそれは、もはや柔和な男のものではない。




──あぁ、そっか。



──大切なひとを失うかもしれない絶望は、人間をこうも変えるんだなあ。



──中也は、わたしが死んだとき、どうするんだろ。




/ 96ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp