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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第4章 六月の雨






給湯室に行くと、なにやらぶつぶつとまじないを唱える部下がいた。直属ではないにせよ、綴がかわいがるうちのひとりである。



「私は大丈夫、私は大丈夫、絶対に先輩のお役にたってみせる……、大丈夫、絶対に大丈夫……」



見ていておもしろいほどに緊張している部下に、綴は少しだけ微笑んで、湯沸し器に手をかけながら声をかけた。



「なぁにそんなに緊張してるの、樋口」

「あっ、あああ青空幹部!? ご、ごごごごめんなさい! 別にそんなに大したことでは……」

「あはは、そんなに焦らないでよ。話してごらん? 大したことじゃなくてもさ」



綴はつとめてにこやかに、相手に親近感を与えるように話した。さすがは森直伝の人心掌握術といったところか。



「本当に大したことではなくて……。ただ、本日の任務が少々不安でして。敵対する探偵社に単身乗り込むところから人虎を生捕りするという大役を仰せつかったものですから……」

「あぁ、それ、今日だっけか──」





──単身乗り込む、って、ただ人虎を誘い出すだけだったと思うけど……、彼女にとっては攻撃を仕掛けるのと同等の任務なんだろうな。





「芥川先輩のお役に立てるのなら、私はこの命をも賭す覚悟なのです! がしかし、芥川先輩はほとんどの任務をひとりで遂行してしまわれるので、私の出番はほぼないというか……。なので今回は気合いを入れていかねば! と思うのですが、思えば思うほど緊張が……」


「しかたないよ、大役だもん。応援してるよ、がんばってね」





──そっか、この子は芥川を慕ってるんだよね……はたしてそれは先輩としてなのか、を考えるのはわたしの仕事じゃないか。





がんばります、と息巻く樋口に笑みを向けながら、綴はまったく違うことを考えていた。今朝方感じた不吉な予感はまだ消えていない。そちらをなんとかするべく、綴は席を立った。






──間諜の件もあるし。……なんにせよ、油断はできないな。



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