第3章 間奏曲
「……森さんの気持ちは、よくわかったよ。でもね、わたしは考えかたを変えるわけにはいかない」
森はなおも黙ったままだ。
「森さんは、組織を統括するための要素って、わかる?」
「………」
「それはね、信頼だよ。ねぇ、森さんは、部下からなにか相談を受けたことはある? 暗殺についての作戦とかじゃなくて、組織の外の女と結婚したいのだけどどう思うか、とか、子どもが生まれるから名前をつけてほしい、とか、プライベートかつ重要な相談を。ねぇ、ないんでしょ?」
いま、綴は森を追いつめている。そのことがわかっていてなお、綴は言葉を止められなかった。それは、大事な大事な、
──中也のため? うぅん、ちがう。
「暴力による恐怖はたしかに必要だけど、もう古いんだよ。そんなんだから裏切り者が出て、そんなんだから太宰が怖くなるんだよ。ねぇ、森さん!」
「……すまないね、でも、これが私のやりかただ。文句があるのなら、私とやりあうかい? せっかくここまで来たんだ。私は、先代のようには決してなりたくない」
──わかってるよ、そんなこと。
「きみだって、中也くんを最大限信頼できているわけではないだろう? 信頼できているのなら、きみの〝異能力〟について、中也くんが知っていなければおかしいのだから」
「──っ、」
──やめて。
「中也くんに心配をかけたくないかい? 中也くんと少しでも笑っていたいかい? ならば私の言うことを聞け」
「っわ、わたしは……!」
「きみの記憶はさして重要ではないよ。いまの私にとって最優先事項は中也くんの教育であり、それが合理最適解だ」
──わからない。わからないよ、森さん。
──森さんにとって、わたしはなに?
──わたしの異能がほしいわけでもなければ、わたしの親代わりになったわけでもないのなら。
──森さん、わたしはいったい、なんのために生かされているの?