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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第3章 間奏曲







部屋に戻った綴は、お気に入りのパソコンの前で泣いていた。こらえていたものがすべて出てきてしまう。その慟哭は、誰に聴かれることもなく、静かな闇に消えていった。







──あの頃は、まだよかったな。



綴は四年前に思いを馳せた。
あの頃は、大きらいな太宰はいたけれど、中也と笑えて、最高にしあわせだった。いまだって、綴は中也と笑えないわけではない。大きらいな太宰を追い出して、ふたりそろって幹部になった。中也とやっと対等になれたのに。








──中也は悪くない。





綴が中也に心から笑えなくなったのは、すべて綴が悪い。いつからだっただろうか、心の中で泣きながら笑うようになったのは。関係性が、少しずつ変化したのは。







──いいや、変わったのは中也じゃない。かといって、わたしが変わったわけでもない。








──変わったのは、大事なものが増えてしまったことくらい。そのせいで、これからが怖くなったことくらい。




綴が中也に惚れた頃は、綴がいちばんしあわせだった頃だ。その頃の記憶にどっぷり浸かりながら、綴は擬似的なしあわせを追体験しているのだ。幸福を反芻しながら、現実から目を背けているのだ。









──死ぬのが怖くなるなんて、夢にも思わなかった。







綴は中也にかくしごとをしている。たったひとつだけ、けれどそれでいて大きな大きな秘密を。言ってしまいたい衝動にかられたことはない。ただ、まっすぐな中也にまっすぐに応えられないことに、綴はひどい焦燥を感じていた。









──中也は、中也だけは、誰にも奪られたくない。そのためなら、わたしはなんだってする。






綴は自分を異常だと思っていた。自分の中也への執着は尋常ではない。そのことに中也は気づいているのだろうか。いつか、離れていってしまうのではないか。それでも、四年前の約束を果たすなら、綴にそれを止める権利はなかった。










──まだ、このことは話せない。まだ、その時期じゃない。









──まだ、中也に誠実になれない。













──痛いよ。





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