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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第2章 かの女






「いままでやさしくしてきたから、勘違いしちゃったかな? わたしなら、頼めば探してくれるって。いままでわたしがきみにやさしかったのは、太宰と正反対の行動をとりたかったからだよ。それはこれからも続ける。でもね、そのお願いだけはきけないなぁ。わたしになにかメリットがあるなら別だけど……、だから、ごめんね?」




綴は始終にこやかだった。太宰より黒に染まりたくて、太宰より残酷になりたくて。
芥川の背後で中也が痛々しげに顔をしかめた。内頬を噛んで怒りをこらえているのがありありとわかった。















──ごめんね、中也。でもこれは芥川のためなの。






綴は笑った。自分がひどくみじめに感じて。太宰をきらっていたはずなのに、そうやっていつの間にか意識していた自分に気づいて。

太宰に酷く扱われすぎて、芥川はやさしさに麻痺していた。綴がそこに取り入るのも易しかったし、芥川も甘受していたふしがあったから。それを、──利用した。













──芥川のためだ、なんてうそぶいて。ほんとうは自分のためなのに。



























「依頼は、やめます」
「あれ、やめちゃうの?」



驚いて綴は芥川を見た。同じように驚愕している中也と目が合う。




「この依頼に、綴さんのメリットはありません。……たとえここで僕が綴さんを騙してその気にさせても、綴さんがその嘘に気づかないほど腑抜けだとも思っていません。騙しきる自信も、度胸も、技量も……、僕には、ありませぬ」













──変にものわかりがよくなっちゃったなぁ。



そこで、はたと綴は気づいた。







──あぁ、そっか。芥川は太宰に認められるまで、太宰のそばにいたかったんだ。その実力を、技量を、認められたくて。





けれど、太宰はそれをしないまま出奔したのだ。だからこそ芥川は見捨てられたと思いこんで、自分の価値を推し量りかねていた。〝自信〟も、〝度胸〟も、〝技量〟も、太宰を振り向かせるには満たなかったから。


──だからわたしにも、そんなに弱々しく頼らざるを得なかったんだ。

















──ごめんね。


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