第2章 かの女
「手前、どこまで知っていやがる。…………いや、知らねェのか?」
「ご名答。わたしはなにも〝知って〟はいない。さすがに森さんの執務室には監視カメラは設置できなくてね。だから情報はなにもない。いままでの情報からの予想と、あとは『わたしだったらこうするかな』っていうただの予測だよ」
「ハッ、つくづく怖ェやつだ」
ふたりは同じ顔をして笑った。それはとてもいたずらっぽく、そして裏社会の中でいつもは隠れている、年相応、十八歳の笑顔のようだった。
──ごめんね、中也。
綴は笑顔の裏で、ひっそりと眉尻を下げた。贖罪ができない自分に、ひどくいやけが差した。贖えない罪が、記憶の罪が、綴の心を苦しめた。
──わたしはまだ、きみにかくしていることがある。
──でも、わたしはわたしのために、そしてほかならぬ中也のために、それを、かくしておかなきゃならない。
──いまはまだ、そのときじゃない。
──もう少しだけ、もう少しだけでいいから、このままで。
──お願い、神さま。
神なんて信じていないような顔をして、と綴は自嘲した。ひとなんてものは、つくづくもろい。結局はなにかに縋らないと生きていけないのだ。そしてそれは、綴も同じで。
──わたしも、本質は太宰と変わらないのか。
あんなにきらっていたはずの太宰をとても身近に感じてしまって、綴はそれこそ自嘲した。
──わたしはちがうと、思ってたんだけどなぁ。