第2章 かの女
次の日。起床すると、きのうとはうって変わって静かな朝だった。
──森さんがなにかしたかな……。
パジャマからいつものブラウスとスカートに着替えて、綴は愛するひとのもとに向かった。
「おはよ、中也……って、忙しそうだね。出直そうかな」
「あぁ、起こしに行こうと思ってたンだ。戻らなくていい。
手前ら、とりあえず首領の言ってることが事実だ。それは綴も証明してくれる。いまは混乱せず、冷静に対処しろ。いいな?」
──こいつらは中也の部下……。森さんが太宰の失踪についてなにか言って、その真偽をたしかめているってとこかな。
「太宰については、森さんがなにを言ったかは知らないけど、おおむね合ってると思うよ。わたしが保証しよう」
つとめてにこにこと中也の部下に言って、その部下が部屋を出ていったあと。綴は中也に向き直った。
「森さんはなにを言ったの? いやに静かだけど……、これは警戒したほうがいい?」
「手前はどうにらんでンだよ」
「わたし? わたしの予想は、あくまで『太宰は探さなくていい』。いずれまた『ふらりと姿を現すだろう』し、必要にかられたら『探す準備』も『探せる人員』も『確保できている』ってとこかな」
「ちっ、……そのとおりだよ。おまえも首領もなにたくらんでやがる。あの首領がこんな対応だなんておかしいだろうが」
──さすがは中也。でも森さんがなにかたくらむのはいつものことだよ。そしてそれは、わたしも。
「森さんはたぶん、好きにさせる気なんだと思う。と、いうよりは、もしかしたらこの出奔自体も森さんが仕組んだことなのかも」
「あ? どういうことだ」
「森さんは、太宰に期待してた。あの極悪非道は平気な顔でひとを殺し、なおも笑っていられる完全な黒だから。でも、それと同時に──
──森さんは、太宰のその類いまれなる、そして自分によく似た才能を怖がってた」
「あぁ? 怖がってた?」
「そう。森さんは、太宰の底をつきない探求心におびえてた。いつか寝首をかかれて、組織を乗っとられるんじゃないかって。いつか、自分が先代の首領にそうしたように」